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小児での近視の進行抑制の話し

ここ数年、近視の抑制の試みが眼科専門医のみならず一般の子供を持つ親の間でも話題となっています。
実際の診療中でも近視抑制の「目薬(低濃度アトロピン)」や「オルソケラトロジー」を行なっていますか?などの質問を受けることがあります。
当院ではこのどちらも行なっていません。
この理由についてお話ししたいと思います。

まず、小児の近視について

学童期における裸眼視力の低下の原因のほとんどが近視で生じています。文科省による2020年度(令和2年度)学校保健統計調査(確定値)の結果では裸眼視力が1.0未満の割合は、小学校37.5%、中学校58.3%、高校63.2%でした。小学生、中学生は過去最高の割合となっています。しかしながら、約30年前の平成5年の統計では小学校23.8%%、中学校47.3%、高校61.9%と日本人全体で言えば近視人口の増大よりは近視発症の低年齢化が進んでいます。 そもそも近視は保有率に民族差がありアジア圏では近視の頻度が高く、近視発症の原因はほとんどが遺伝的な素因であると言われています。発症年齢は小学校の低学年から増え始め20歳前くらいに進行が止まります。 近視の進行抑制の必要性 近視の程度が強いほど失明に至る病的近視の頻度が高く、強い近視では矯正に必要な眼鏡やコンタクトレンズの度数が強いために日常生活の不便さがあり、近視の進行抑制は好ましいことです。

 
 

最近の近視の進行抑制治療

1)低濃度アトロピン点眼
2)オルソケラトロジー(orthokeratology)
3)多焦点コンタクトレンズ、多焦点眼鏡
4)野外活動
5)その他

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1)低濃度アトロピン点眼

アトロピン点眼薬は目の調節を麻痺させる点眼液で2006年に行なわれた研究(ATOM1 study)では1%アトロピンで近視の抑制効果が認められました。しかし、濃度が高いために眩しさや近見障害が強く、その後、低濃度のアトロピンで比較するATOM2 studyやLAMP study(2019)などが行なわれ、上記の副反応や点眼中止後のリバウンドに関しての研究も含めた最近の報告では0.01%~0.05%アトロピンが最適とされ、実際に外国では0.01%と0.025%のアトロピン(マイオピン®︎)が市販されています。日本ではこのマイオピン®︎を個人輸入して自費診療を行っているクリニックが増えています。日本国内では参天製薬が臨床試験を行っています。
現在、正式に近視抑制のエビデンスのあるのはこのアトロピン点眼療法のみですが抑制効果は推奨の0.01%アトロピンで28%、0.025%で43%と近視の進行速度の低下は30-40%となります。また日本でも同様な研究(ATOM-J study)が行なわれ2年間の結果が2021年に掲載されました。この結果は6-12歳の対象群で2年間の屈折変化は0.01%アトロピン群が-1.26Dに対してプラセボ(無治療)群が-1.48Dで抑制率は14%と諸外国の結果より不良でした。この数字を大きいと見るか小さいと見るかは個人差が大きいと思います。現在はアトロピン点眼療法は保険適応ではありませんので薬剤代金、検査、診察料金は全て自費診療になります。
ですので、導入に躊躇しているのですが、薬剤が日本製の承認薬された場合に近視の進行速度の強い学童には導入したいと考えています。

2)オルソケラトロジー(orthokeratology:オルソK)

オルソケラトロジーとは特殊なカーブデザインのハードコンタクトレンズを夜間に装着し角膜形状を変形させ日中はコンタクトレンズ の装用は行わないで矯正する角膜矯正療法で、2004年に米国のFDAに承認されました。日本では並行輸入でコンタクトレンズが危険とされた学童期のスポーツ選手の間で普及しましたが2009年に厚労省に認可されました。欧米では主に成人が用いるコンタクトレンズ ですが用いた子供で近視進行が緩やかになるという報告が増え、近視の進行抑制効果の研究が進められています。研究の結果は報告によりまちまちで24%-63%との報告があります。
日本における「オルソK」の20年近く前からの普及いきさつを知っている私としましては、夜間にコンタクトレンズ を装着して寝るという侵襲と角膜障害リスク(実際に恒久的な角膜障害を生じている例もある)と高額な自費診療(初年度15-20万円、2年目以降は年3万円)を考えると積極的にはお勧めできません。しかしながら、今後、明らかに近視の進行が早い児童に対しての近視の進行抑制のエビデンスが得られれば導入の可能性はあります。

 

3)多焦点コンタクトレンズ、多焦点眼鏡

多焦点コンタクトレンズとはオルソケラトロジーが近視を抑制することと同じような機序で海外では開発使用されてきている1日使い捨てコンタクトレンズです。世界では何種類か発売されて40%-60%の進行抑制効果を示していますが残念ながら日本には導入されていません。
確実なエビデンスが証明され、日本に正式導入されれば当院でも採用したいと思います。
特殊設計の多焦点眼鏡も同様に近視進行抑制が期待できますが日本におけるstudyでは抑制率が10%くらいの結果が出て普及していません。

4)野外活動

多くに研究(アメリカ、オーストラリア、シンガポール、中国、台湾など)から野外で過ごす時間の長い小児は近視の有病率や発症率が低いことが明らかになっています。実際に台湾では野外活動などで1000ルクス、1日2時間を義務付けて効果を認め、シンガポールではゲーム時間を減らすことで近視の子どもを5%減らしたりしています。

5)その他

望遠訓練器、立体視訓練、超音波治療器、低周波治療器など民間療法が氾濫していますがいずれも科学的なエビデンスはありません。
日本における近視研究の最先端は東京医科歯科大学の先端近視センターの直近の案内を添付いたします。先端近視センターはこちら

最後に

近視の進行抑制はとても意味のあることです。ただ、来院される小児を持つご両親の話をお聞きすると極度な近視の進行を抑制することを目的に相談されるよりも、発症した近視を元どおりに治せないかと考えておられる方の方が圧倒的に多いような気がします。
近視に関しての正しい理解の普及を目指すとともに、実際に近視の進行が早い人に対しての治療法の選択ができるように勉強したいと思います。